天界

投稿日:

どこまでも深い空の青と
瓦礫のような赤茶色の土
現実なのか
夢なのか
初めて富士山を目の当たりにしたのは
17歳の夏
東京へ向かう車の中
まるで
雲から顔を出した
空に浮かぶ島ようだった
17日、日付の変わる前に集合
ナツメロをみんなで口ずさみながら
名神、東名を走り抜く
浜名湖で運転を交代して仮眠
シャトルバス乗り場で目を覚ますと
見事なまでの雨模様
一同げんなりしつつも
装備を整え、いざ出発
シャトルバスで新五合目の富士宮登山口まで
登山口は深い霧に覆われて
前方がほとんど見えない
高度に身体をならすために
1時間の小休止
地上ではまず食べないであろう
まずいラーメンを食べ
それぞれ休憩
13:10
登山開始
数メートル先も見えないような霧の中
ロープを目印に進む
気温は低めだけど
登るにつれ体温が上昇する
六合目までは
本当に軽いハイキングのような距離で
なんなくクリアー
一服して
氷砂糖を食べて
山小屋できのこ茶をいただく
再出発
20分歩行5分休憩をくりかえす
休憩のたびに水分を補給
水をひとくちふくんで
氷砂糖をひとつぶ食べる
どのくらい歩いたのかが
まったくわからない
下を見ても霧
上を見ても霧
気がつくと新7合目の山小屋だった
山小屋でトイレを借りる
富士山の山小屋ではトイレを借りるのに200円かかる
すこし長めの休憩をとって
また歩き出す
富士宮登山道は
登山と下山の道が同じなので
上からどんどん下山者がやってくる
「こんにちわ」と挨拶をかわし
「がんばってください」と励ましてくれる
疲れきっている人
軽快な人
外国の人
靴の壊れた人
いろんな人がいる
岩が少なくなり
砂利と砂の道になると
足が深くめりこんでしまうので
とても登りにくい
休憩を頻繁にとり
さらに上を目指す
山小屋に到着した
ここはどこだろう
元祖七合目
こんなにも歩いたのにまだ7合目
海抜3010メートル
長めの休憩をとる
山小屋でチップスターを買って食べた
糖分はとっていたけど
塩分をとるのはものすごく久しぶりのような気がして
ものすごくおいしかった
糖分と塩分をバランス良く摂取することが
きっと上手な登山のしかたなのだろうと思った
山小屋というのは
独特の空気がある
山の斜面にへばりついたような感じで
高さはなく、木造
壁などは岩でつくられている
それが日本ではあまり見かけるものではなく
南米や中国の高山地帯にいるような気がしてくる
八合目を目指しているときに
太陽が山陰へ沈んでゆくのを見た
すこしだけ霧が晴れて
下から登ってくる人や
上から降りてくる人が見えた
18:00
八合目到着
荷物をおろし
山小屋で質素なカレーをいただいた
出発の準備を整えて
1枚の布団に3人という状況で
しばしの仮眠
0:00
山頂を目指し出発
気温は低い
空を見上げると
無数の星が見える
ありがたみを感じなくなるぐらい
流れ星が見えた
傾斜がきつくなる
岩を登り岩を登り
休憩のたびに寝そべって夜空を見上げる
他の登山者のヘッドライトが
イルミネーションのように一列にならんで見える
九合五勺
山頂まであと少し
気にならない程度の軽い頭痛はあっても
高山病はない
肉体的にもそこまでの疲労もない
呼吸が乱れても
立ち止まってゆっくりすれば慣れる
3:21
登頂
おめでとうと仲間で祝い合う
山頂はご来光を待つ人々でごったがえしていた
ご来光をしっかり見るために
東へ移動
朝日ヶ岳というところで
日の出を待つことにする
風が冷たく、気温が低い
カメラを持つ手がかじかんでくる
煙草を吸って
その時を待つ
前方の空が
すこしずつ明るくなってゆく
紺色とオレンジのグラデーション
人がじょじょに増えてゆく
空が明るくなるにつれ
生クリームのような美しい雲海が見えた
その生クリームの中から一筋の光が見える
ご来光
あたりで拍手と歓喜の声が巻き上がる
不思議なもので
地平線から現われると思っていたご来光が
雲海の中から顔を出した
バーチャルな世界かと思ってしまうほどに
目にうつるものが美しすぎた
何十億年も前から同じように
あたりまえのようにくりかえされた
一日の始まりが
これほどまでに特別に感じられるのも
富士山頂だからなのだろう
6:00
富士宮口山頂の食堂は
すでに品切れ状態だったので
河口湖口の山小屋を目指す
いわゆる「お鉢廻り」というもので
噴火口をぐるり一周する
剣が峰にある観測所を目指す
馬の背と呼ばれる砂礫の急斜面を登る
ここが最高峰
日本で一番高いところ
記念撮影をしようという登山客で長蛇の列ができていた
さらに西へ進むと
雲海に富士山の影が写っている
これが影富士
さまざまな条件を満たさないと
見ることができないといわれているらしい
初登頂でこのようなものに巡り会えたのは幸運だと言われた
冷たい風が吹き抜ける
火口には雪が残っていた
何万年もここで
解けて凍ってとくりかえしているんだろう
河口湖口の山頂には
山小屋が軒を連ねていた
山口屋というところで朝食をいただく
カレーライス1200円
お世辞にもおいしいと言えない味でこの値段
みそラーメンをすこしおすそわけしてもらったが
こちらもお金を払ってたべるには惜しい味
空気が薄いというのを
あまり感じることができなかったけど
煙草に火をつけたときに
吸っても吸ってもなかなか燃えないのが
それを証明してくれた
あと
カメラのシャッター音が
いつもよりも乾いた音になっていたのが
おそらく、そういう事なのだろう
そのまま北から東へと進み
富士宮口へ辿り着く
下山用の装備にかえ
9:10下山開始
昨日の霧が嘘のように晴れ渡り
新五合目はおろか
シャトルバス乗り場まではっきり見える
見えてしまうと
たったこれだけしか登っていないのか
と思ってしまった
山肌を一気に駆け下りる
ゆっくり降りられるほど
筋力に自信もゆとりもないので
砂の多い場所を滑り降りる
登りの時は、霧だったり深夜だったので
みれなかった景色がいろいろ見える
九合五尺から九合目にかけて
万年雪がみれた
このあたりには
高山植物もない
下りは
筋力的にはきびしいけど
体力的には楽なので
山小屋ごとに休憩をする
左手に
美しい宝永山が見える
何枚か写真をとってみたけど
どうしても逆光になってしまう
八合目からさらに下ると
美しい高山植物をたくさん見ることができた
空の青と土の赤、植物の緑それぞれが
際立たせ合っている
いつかみた犬島のレンガの山を思い出した
あの時もこの3色が美しかった
山を下りながら
何故、高山病にならなかったのだろうと考えた
ひとつは
仲間が事前にしらべてくれていた事で
「登頂まで酸素缶は吸うな」
というのがあるのだと思う
せっかく高度と薄い空気に慣れたのに
一気に濃い酸素を吸ってしまうことで
慣れたからだを元に戻してしまうからなんだろう
あと最後までピンピンしていた人と
すこし頭痛に悩まされていた人と何が違うのかを考えると
最後までピンピンしていた人は
以前は水泳をやっていたという事
その他にも、吹奏楽器をやっていた人は
比較的頭痛は少なかったようだ
科学的な根拠などは一切わからないけど
おそらく「血中酸素濃度の低い状態」というのに
身体が慣れているからなんだろうと思った
酸素の少ない状態で効率よく動くすべを
身体が覚えているからなんだろう
元祖七合目、新七合目、六合目と
順調にすすむ
下るにつれて植物も増え
新七合あたりでは黄色やピンクの花も見ることができた
六合目までは
ハイキングに来る人も多く
軽装の人と山を下る
このなだらかな傾斜が
実は一番足にこたえた
最後のコンクリートの階段を降り
無事下山
シャトルバスに乗って
駐車場まで
バスに酔ってしまったのと疲れで
帰りは眠ってしまった
日に焼けて顔がぴりぴりした
駐車場で着替えて、すこし休む
雲のかかった富士山が見えた
どうやら本当に登ったらしい
聞いていたよりも楽に登頂することができたので
あまり実感がない
というよりも
目に映るものすべてが
あまりにも日常からかけ離れていたので
まるで夢をみていたかのようにしか思えないんだろう
東名高速を走る
なつかしい歌を歌いながら
たくさんの稲妻を見た
山頂から見た分厚い雲海は
この稲妻の雲だったんだろうか
なにか変われたんだろうか
あの光が
なにかを洗い流してくれたんだろうか
だけど
天界から下界におりたとたん
またいつもの自分な気がした

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です